介護する人には2種類います。在宅で介護する「家族」。そして、職業として介護する「介護職」。家族だから、職業だから、介護するのは当たり前、と言ってしまえばそれまでですが、介護というのは想像以上に心と身体を酷使するものです。本人には本人のつらさがありますが、私たちはご家族や介護職に本当に共感でき、本当に必要な支援ができているでしょうか。筆者は、家族と介護職、両方に対して、心のケアが必要だと考えています。今回は、家族について考えてみます。

介護が子育てはどこが違うのか

介護は直面しなければ、まったく実感がわかないもの。職場でも、若い世代は「おじいちゃんやおばあちゃんが大変だったみたいだ」という記憶がある方もそれほど多いわけではなく、30代に介護の話をするのと、50代の方々に話をするのとでは、その共感度合はかなり違います。
そんなとき、30代の方々には、子育ての大変さを引き合いに出して説明をします。子育てと介護は似ている部分もあるからです。守らなければいけない、面倒をみなければいけないところはよく似ています。

しかし、介護と子育ては決定的に違う要素があります。ここではそのうちの3つを挙げてみます。

① 終わりが見えない
介護は終わりが見えないこと。ある調査では(※)介護期間が10年を超える場合もあり得ます。平均でも3年以上となっています。

② 日々衰えていく
目の前にいる高齢者が、日々「できることが減っていく」こと。子供は日々成長する、上向きの矢印だとすれば、介護はその逆。なるべく機能を維持していくことはできても、何かが劇的に治ったり、飛び跳ねるほど元気になることは決してないのです。
このプロセスで、本人が「それまでと違う」人に見えたり、体の機能が失われていくさまを目の当たりにすることになります。そんなとき、介護家族はあたかも「すでに失ってしまった」気分になります。いわゆる「予期悲嘆(grief before death)」、「悲しみの先取り」をしている状態で、本人が亡くなる前から悲嘆に暮れる状態です。

③ 大勢の関係者
介護は、子育てのように親(または夫婦)と子の1対1ではなく、親に対して子が数人、または本人の配偶者も含めて、複数の人が関与します。しかし、一見多くの人が関与しているように見えて、実は「たったひとり」がキーマンになってしまうのも介護の特徴です。

もちろん、このほかにも、本人が子供ではなく大人である、ということも一つの要素です。異性が排泄や入浴介助することは双方にとって複雑な心境になることも、精神面で多大な影響があります。

精神的負担の結果、起きること

これらの要素から起きることは、終わりのない不安、失うという悲しみ、たった一人で決めなければならない孤独。終わりがないということは、経済的な不安や自分のキャリアに関する不安も含まれてきます。
また、年を取って心身の機能が衰えると、社会性という鎧をつけることがなくなり、とりわけ家族には生身の人間の感情が露わになります。そのことに振り回され、傷つくのはいちばん近い家族であることは言うまでもありません。

ちなみに、介護で生ずる否定的な感情を8つに分類している文献もあります(※2)。
「被害感」「無力感」「怒り」「負担感」「罪悪感」「不安」「孤立感」「悲しみ」

また、家族介護者の現状と支援における課題は、下記に実際の調査結果があります。
「家族介護者の負担を軽減するための支援方策に関する調査研究事業」
平成26年3月 一般社団法人 シルバーサービス振興会
http://www.espa.or.jp/surveillance/h25_02report.html

たとえば、家族介護者が精神的負担によって、「半数以上の介護者が介護による変調きたしていた」「介護に対する負担感が高いほど、精神的健康度が低下している」「身体的、心理的な理由で日常の活動が低下する日常役割機能の低下、社会参加や友人との交流の機会といった社会生活機能が介護者のQOL (Quality of Life生活の質)を低下させていた」とあります。

介護家族が、あなたの会社の従業員だったら

もし、そうした家族が企業の従業員だったら、企業としては、働き方の改革はもちろん、心のケアも含めた支援をすべきでしょう。

実際のところ、会社が仕事と介護両立支援の方針を打ち出しても、一回のアクションですぐに従業員が心を開いて悩みをどんどん言ってくることはまずないでしょう。大事なのは、「会社がそういう考えを持って体制をつくっている」ということをきちんと示すことです。介護の話というのは、とりわけ会社に言いにくい種類のことです。何度何度も、回を重ねて発信することではじめて、介護の悩みはじわじわと表に出てきます。

「うちはあまりそういう話をする人はいないから」と油断せず、いちばん言いにくい「介護の悩み」を吐き出せるよう、ぜひ早めに手を打っていただきたいと思います。

参考文献

※1 平成26 年度 「仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査」厚生労働省委託調査 株式会社三菱総合研究所 有効回答数2819 件(雇用者対象調査)

※2 「介護者と家族の心のケア ー家族介護カウンセリングの理論と実践」2005年 渡辺 俊之著 ㈱金剛出版

この記事の筆者

荻野 百合子

株式会社LIXIL住生活ソリューション シニア事業部 課長
ホームヘルパー2級、福祉住環境コーディネーター2級
早稲田大学卒業。
1986~2008 株式会社三菱総合研究所 勤務。 専門研究員として雇用労働・産業構造を専門に、ワークライフバランス、女性の就業等について官公庁調査業務を担当。厚生労働省 職業安定局の労働力需給推計業務を担当、独立行政法人 労働政策研修・研究機構の「労働力需給推計委員会」委員(2008~2015年まで)
2008~2013 医療系IT企業にて医療関連リサーチ業務、介護職員・看護師の満足度調査、介護施設のコンサルティングを担当。
2013~ 株式会社LIXIL シニアライフカンパニー入社。介護付き有料老人ホームフェリオ多摩川ホーム長就任、2014年より本部企画業務に従事
2016.4~ 株式会社LIXIL住生活ソリューションに出向 シニアホームなび 担当