2000年に介護保険法が施行され、介護は措置から契約(介護サービス)へ変わり、お客様が自由に選択できるようになりました。
そしてさまざまな民間企業が介護の業界へ参入してきました。
しかし、介護保険制度は3・5年周期で報酬・制度の見直しがあり、そのたびに新しい価格、新しいサービスが追加され、介護業界で働く人でさえも正しく理解している人は多くないのが現状です。ここでは老人ホームを運営してきた経験からお客様から誤解が多かった項目について出来るだけわかりやすく解説して行きたいと思います。

老人ホームはいつ入居する?

今回は、老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの高齢者住宅・施設に入居するタイミングについて解説したいと思います。

みなさんはいかがですか?
老人ホームなどの高齢者住宅・施設は、「介護が必要になってから」入居すると思っている方が多いのではないでしょうか?

40歳以上の方を対象とした調査結果(※1)によると高齢期に生活したい場所(下左グラフ)として、72.2%の方が自宅での生活を望んでいるのに対して、介護になった場合の生活場所(下右グラフ)として自宅を希望される方は73.5%と若干増えています。しかしながら、希望する中の半数以上37.4%の方は、家族や親族には依存したくない(迷惑をかけたくない)という思いを持っています。また、老人ホームなどの高齢者住宅・施設・病院での生活を希望する方は、16.2%から25.0%まで増加しています。4人に1人は、介護が必要になれば老人ホームなどの高齢者住宅・施設へ住替えることを考えていることがわかります。

端から老人ホームなどを選択肢に入れてない方を除くと、高齢期に生活したい場所を老人ホームなどの高齢者住宅・施設と考える人が58%なのに対して、介護を受ける場所として老人ホームなどを考える方が94%となっており、老人ホームへ住み替える時期として「介護」は重要なポイントであることがわかります。

おすすめする住み替え時期

では、いつ住み替えるのが良いのでしょうか?
これは一人一人を取り巻く環境(家族構成や家族との住まいの距離、自身の経済状況や家族の仕事や経済状況など)や個々の価値観、人生観、また個人差がある前提ではありますが、筆者は男性71歳、女性74歳が老人ホームなどへの住み替え適齢期(※2)と考えます。
(実はこの年齢、9月20日の特集記事「平均寿命と健康寿命を考える」に書かれた健康寿命の平均年齢なんです。)
その年齢を適齢期と考える理由は、大きく二つあります。

1つ目は、老人ホームは住まいであるということです。
高齢期に、そして介護になっても住みたい場所として自宅が70%以上を占める理由としては、知った周辺環境、知人・友人・親類が近所にいる、住まいの使い勝手、慣れた住み心地などがあげられると思います。だとすると、老人ホームも長く住めば住むほど生活リズムが出来、近隣も知ることが出来て、ほかの入居者や近隣の方、ホームの職員などが知人、もしかしらた友人となり、自分にとって自宅になって行き、そこに住み続けたいと思えるようになってくるはずです。老人ホーム=自宅となるためにも早めの住み替えが良いと考えます。

2つ目は、環境の変化に対する適応力が高いうちにということです。
1つ目に通ずるところもあるのですが、私は加齢とともに適応力は落ちるものだと考えています。それは、社会性という人間の基本的傾向と比例すると思いますが、概ね人は加齢とともに社会性は減少していき、行動範囲が狭くなり、日常的に接する人の人数も減少していく傾向にあると思います。介護が必要な状態になるとその傾向は一層強まります。こういう状況で住み替えをすると、本人の強いストレスとなり、それが症状として出て来てしまいます。
老人ホームの業界では、「リロケーションダメージ=環境変化に伴う精神的損害」と呼ばれていますが、症状はさまざまで、強い帰宅願望、介護拒否、引きこもり、うつ傾向・うつ病発症、認知障害、認知症発症・悪化、暴言、暴力などがあります。老人ホームなど受け入れる方は、入居されてくる方のリロケーションダメージを低減するための対応は行いますが、それでも適応できない方も少なからずいらっしゃいます。だからこそ、自分自身で環境を知り、人間関係を構築し、生活リズムを作れる時期こそが住み替えに適していると考えます。

老人ホームで豊かな暮らしを

前述の理由の他にも筆者が早めの住み替えを推奨する理由があります。
現在、老人ホームや高齢者住宅・施設での平均在居期間はどのくらいだと思いますか?
それは約4年(※3)と言われています。私が運営に携わっていたホームではもう少し長く7年ぐらいです。
大半の方が介護が必要になってから住み替えている現状でも4年という期間を老人ホームなどの高齢者住宅・施設で過ごすことになるのです。
決して短い期間ではないからこそ、老人ホームなど高齢者住宅・施設での暮らしはより豊かなものにならなければと筆者は考えます。
早めの住み替えは、老人ホームなどでの暮らしをより豊かにする一つの道だと思います。
もし、人生最後の4年間が適応できない環境での時間となってしまったらと思うと悲しい気持ちになります。
実際に老人ホーム運営に携わっていたときにスタッフたちとこの方はうちのホームに入居されて本当に良かったんだろうかと真剣に話し合ったことが何度もあります。
またご家族ともそんな話をさせていただいたこともあります。

より良い暮らしにするための一案として早めの住み替え推奨の話をさせていただきました。みなさんのそしてみなさんの親御さんの住み替えの参考意見としていただければ幸いです。

参考文献

※1.平成27年度少子高齢社会等調査検討事業報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
※2.厚生科学審議会(健康日本21(第二次)推進専門委員会)2014年
※3.平成25年度有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査研究事業報告書(公益社団法人全国有料老人ホーム協会)

この記事の筆者

蜂須賀 尊之

株式会社LIXIL住生活ソリューション シニア事業責任者

1966年 兵庫県生まれ

1989年 トーヨーサッシ株式会社入社
2003年 介護付マンション事業の企画担当となる
2006年 住生活グループ(現LIXILグループ)初の高齢者住宅・介護事業会社となる
「株式会社住生活グループシニアライフ」 立ち上げメンバー
人事・経理・マーケティングの責任者として、会社の基礎を創り上げる
2010年 レジアス百道支配人、福岡3拠点統括責任者
介護現場に改善手法(QC活動)を導入・サービス品質の見える化を促進
2013年 拠点を超えた人事交流を推進
2014年 LIXIL高齢者の住生活相談センター/LIXILの居宅介護支援事業所 介護計画百道 開設
2015年 東京・福岡全7拠点統括責任者
2016年 株式会社LIXIL住生活ソリューション着任 シニアホームなび開設