ポリファーマシー、という言葉をご存知でしょうか。「ポリ」=たくさんの、「ファーマシー」=薬剤、つまり一度に服薬する種類が多数になっていることを指します。高齢者はいくつもの病気を持っていることがしばしばあります。服薬の種類は高齢者の平均4.5種類、70歳以上では平均6種類以上とも言われています。こうした多剤併用は、薬の相互作用が予測できない形で起きる可能性があるという点で、注意を要するとされています。高齢者は5剤以上では転倒リスクがあることが実証実験(注)で明らかとなっています。ここでは、服薬で気を付けたほうが良い点を、老人ホームに入居後も含めてご説明します。

ポリファーマシーと高齢者の問題

高齢期にはフレイル(※)と言って、生理的予備能が低下しています。人間の生理機能には、心臓の働きや消化などの生命を維持するための基本的機能、日常生活を営むための機能、さらには運動やストレス下のための「予備能」に分類され、この3つめの予備能が20歳を境に徐々に低下していきます。また、70歳あたりで日常生活機能が低下、80歳では基本的機能も低下していきます。

つまり、生理的予備能の低下は、臓器の余力がなくなってくることを意味しますので、ただでさえ薬物の吸収・代謝・排泄等は身体の負担となるのです。一方で、高齢者は病気が増えることで薬の種類も増えていますし、認知機能の低下によって、飲み忘れや誤服用も悪影響を与えます。こうしたことから、高齢者の多剤服用(ポリファーマシー)は、十分注意しなければならないのです。

※フレイルとは、高齢者に起こりやすい傾向として、体重の減少、(主観的)疲労感の増加、日常における活動量の低下、歩行速度など身体能力の低下、筋力(握力)の低下が徐々に起こることを指します。いわば、「自立から要介護へ移行する中間段階」であり、きちんと手を打てばまだもとに戻せる可能性がある状態ともいえます。

慎重な投与が必要な薬、飲み合わせ

前述の一般社団法人 日本老年医学会では、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」も作成して公表しています。高齢者にふだん処方されている薬剤でも、ここにリストアップされているケースがあります。だからといって、自己判断で服薬を中止することは禁物ですが、高齢者にとって、状態によってはリスクのある薬も処方されていることがある、ということ自体は知っておいた方がよいでしょう。主治医の先生がどのように考えて処方しているか、薬を減らすという考慮がされているのか、聞いてみるのも良いと思います。

老人ホームに入居してから気を付けたいこと

ご自身で管理できない場合は、老人ホームや高齢者施設のほうで、服薬を一括管理しています。老人ホームで安心な点は、必ず飲み忘れないように、見守りをしながら服薬をさせてくれることです。

ただし、自宅から老人ホームに入居したてのときには、少しだけ注意が必要です。自宅できちんと服薬していた方はそのまま老人ホームで同じように服薬しても状況は変わらないはずです。しかし、自宅でサボりがちで、医師には「ちゃんと飲んでいます」と言っていたりする場合は、老人ホームに入ると急にしっかりと服薬するようになるわけで、それは服薬行動としては大きな変化になります。そのせいで、ふらつきなど、これまでと違う状態になるかもしれません。

入居したては、こうした服薬の面からも、変化があることを頭に置いておき、普段の生活がどうだったのか、ちゃんとお薬を飲む方だったのかなども、施設に情報提供するとよいでしょう。

参考文献

一般社団法人 日本老年医学会 ホームページhttps://www.jpn-geriat-soc.or.jp/index.html
「フレイルに関する老年医学会からのステートメント」「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」ほか

この記事の筆者

荻野 百合子

株式会社LIXIL住生活ソリューション シニア事業部 課長
ホームヘルパー2級、福祉住環境コーディネーター2級
早稲田大学卒業。
1986~2008 株式会社三菱総合研究所 勤務。 専門研究員として雇用労働・産業構造を専門に、ワークライフバランス、女性の就業等について官公庁調査業務を担当。厚生労働省 職業安定局の労働力需給推計業務を担当、独立行政法人 労働政策研修・研究機構の「労働力需給推計委員会」委員(2008~2015年まで)
2008~2013 医療系IT企業にて医療関連リサーチ業務、介護職員・看護師の満足度調査、介護施設のコンサルティングを担当。
2013~ 株式会社LIXIL シニアライフカンパニー入社。介護付き有料老人ホームフェリオ多摩川ホーム長就任、2014年より本部企画業務に従事
2016.4~ 株式会社LIXIL住生活ソリューションに出向 シニアホームなび 担当