病院で、死期が近づき心臓や呼吸が止まった場合の蘇生措置として「心臓マッサージ」「昇圧剤」「人工呼吸器」について意向を聞かれます。老人ホームの入居時に書く書類のなかにも「延命治療に関する意思確認」の書類(※)がある場合があります。そのときになって戸惑う方も多いのではないでしょうか。近年、エンディングノートを作成する方も増えてきたため、自分の意向を書いて残しておこう、という方もでてきていますが、まだまだ少数派。欧米に比べて、日本はとりわけこういうことが曖昧なままになっているとも言われます。延命治療とはどいうことなのか、私たちは何を準備したらよいのでしょうか。

まずは家族のあいだでの「共通理解」が重要

「延命はしない」「胃ろうもイヤ」と決めていても、人生の最終段階の状況はそれほど単純ではありません。たとえば、「末期がんで、食事や呼吸が不自由だが、痛みはなく意識や判断力は健康な場合」「認知症が進行し、食事がとれず衰弱が進んできた場合」・・・自分で食べられなくなることひとつとっても、様々な状況があり得ます。

早いうちから、本人を含めた家族全員で話し合っておくのがベストであることは言うまでもありません。しかし、身内でそういう場が持てずに時が過ぎることもあります。

そういうとき、少なくとも同じ情報を共有しておくことが大切です。いざとなったときに、家族がばらばらに「昇圧剤って?」「胃ろうになったら二度と口から食べられないの?」となってしまうと、判断が遅れたり、認識がバラバラな状態でなんとなく合意した、ということになってしまうかもしれません。

そうすると、悔いが残ったり、いさかいの原因になることもあります。何がベストか、というのを決める前に、まず共通の内容を把握することが大事です。

本人の意思を尊重するために医療介護従事者とも連携する

人生の最終段階に限らず、年齢を重ねれば命にかかわるさまざまな意思決定を迫られます。本人の判断力が衰えた場合の評価について、欧米では研究が進んでいますが、日本ではまだまだ家族の判断にゆだねられて、本人の意思をどう反映するのかについての議論は始まったばかりです。
そこで、京都府立医科大学等の研究者がプロジェクトとして行っている「認知症高齢者の医療選択をサポートするシステムの開発」では、医療従事者、在宅支援の医療介護従事者、本人と家族の3者の意識合わせが重要、ということで「納得のいく医療を受けられるよう、受診する前からどんな準備をしておけばよいか」をわかりやすく解説したガイドを作成しています。
ツールは http://j-decs.org から以下の3種がダウンロードできます。
「認知症の人と家族のための医療の受け方ガイド」「医療従事者向け意思決定支援ガイド」「在宅支援チーム向け医療選択支援ガイド」
このツールの開発に携わった京都府立医科大学 成本迅教授によれば、認知症であっても、そのときの精神状態や、ご本人にもともと知識があるか否かで、判断できるレベルが違ってくるそうです。認知症の種類にもよっても違うようです。だからこそ、しっかり本人に説明し、意向を汲み取り、医師とのコミュニケーションを深めてほしい、という趣旨なのです。

どんな選択をしても、苦しまないように

最後に、どんな選択をしても、あとで悩まないことが肝要です。

「あのときの選択はよかったのだろうか。苦しませてしまう結果になったのではないだろうか。もっと生きられたのではないだろうか」という考えが脳裏をよぎっても、大急ぎで頭から消し去ってください。

上記のガイドにも「結果を肯定的に捉えることができないか考えてみましょう」とあります。専門の窓口もあるので、つらいときは相談してみましょう。

参考文献

JST/RISTEX「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域
「認知症高齢者の医療選択をサポートするシステムの開発」 http://j-decs.org

※老人ホームで提出する確認書は、あとで気持ちが変わったら、いつでも出し直すことができます。

この記事の筆者

荻野 百合子

株式会社LIXIL住生活ソリューション シニア事業部 課長
ホームヘルパー2級、福祉住環境コーディネーター2級
早稲田大学卒業。
1986~2008 株式会社三菱総合研究所 勤務。 専門研究員として雇用労働・産業構造を専門に、ワークライフバランス、女性の就業等について官公庁調査業務を担当。厚生労働省 職業安定局の労働力需給推計業務を担当、独立行政法人 労働政策研修・研究機構の「労働力需給推計委員会」委員(2008~2015年まで)
2008~2013 医療系IT企業にて医療関連リサーチ業務、介護職員・看護師の満足度調査、介護施設のコンサルティングを担当。
2013~ 株式会社LIXIL シニアライフカンパニー入社。介護付き有料老人ホームフェリオ多摩川ホーム長就任、2014年より本部企画業務に従事
2016.4~ 株式会社LIXIL住生活ソリューションに出向 シニアホームなび 担当