2000年に介護保険法が施行され、介護は措置から契約(介護サービス)へ変わり、お客様が自由に選択できるようになりました。
そしてさまざまな民間企業が介護の業界へ参入してきました。
しかし、介護保険制度は3・5年周期で報酬・制度の見直しがあり、そのたびに新しい価格、新しいサービスが追加され、介護業界で働く人でさえも正しく理解している人は多くないのが現状です。ここでは老人ホームを運営してきた経験からお客様から誤解が多かった項目について出来るだけわかりやすく解説して行きたいと思います。

「介護業界は離職率が高い」は本当か?

今回は、介護業界の離職率に関する誤解について解説したいと思います。
以前の特集で取り上げた介護離職(親等の介護が理由で会社を退職すること)とは違って、介護業界で働いている人たちの離職についてです。

「介護業界は離職率が高い」と思っている方が多いのではないかと思います。
ではなぜそう思うのでしょう。おそらく介護は、3K(きつい、汚い、危険)職場であり給与等の待遇面も良くないとされているからではないでしょうか?

13年間の有料老人ホーム運営の中でもご入居者・ご家族(以下、お客様)に「またスタッフが変わった」「担当が変わりすぎる」などのご意見をいただくことが多々ありましたし、働くスタッフからも同様の話を聞くことがありました。私自身も住設機器部門から老人ホーム運営に異動した際は、離職が多いと感じましたが、それは自身が身を置いていた製造業との比較であって一般的に離職が多いというものではありませんでした。

では、さっそくデータで見ていきましょう。平成27年度の産業別離職状況(下グラフ)を見ると介護業界が含まれる医療福祉業界の離職率は14.7%、製造業の10.4%と比較すれば高い離職率ですが全産業平均が15.0%ですから決して高い離職率でないことがわかります。
次ではもう少し詳しく見ていきたいと思います。

介護業界の離職率は?

では、医療福祉分野の中の介護に絞ってみていきます。
介護職員の離職率は下グラフにある通り、合計では16.5%で全産業平均より1.5P高いです。
やはり介護業界は離職率が高い業界なのでしょうか?
産業別では、宿泊業・飲食業・生活関連サービス業・娯楽業などが16.5%を上回っています。しかし、介護業界以上に離職率の高さを画面や紙面で目にする機会は少ない気がします。もちろん各業界内では課題の一つなのでしょうが、介護が超高齢社会、少子化による労働人口の減少など日本の将来に関わる重要な社会問題であることが必要以上に介護業界への注目を集め、ことさら高いような印象を作りあげているのかもしれません。
下記グラフからは、もう1つ、在宅サービス系と施設サービス系で違いがあることがわかります。正規社員では、施設系が低く、非正規社員では施設系が高い、これは介護保険制度が抱える問題の一つだと筆者は考えており、このような現象が起きる要因について、どこかの機会でお話しできればと考えています。

これまでに述べた通り、介護業界の離職率は特別に取り上げなければならないほど高いわけではありません。また離職理由の上位は、「人間関係(25.4%)」「理念・運営への不満(21.6%)」で、一般的に想像されている3Kや低収入が理由の上位にないことがわかります。

なぜ離職率が高いと感じるのか?

では冒頭の老人ホームのお客様が「また…」と感じるのはなぜでしょうか?
その一つの要因として接する期間の長さがあると筆者は考えます。お客様と直接接する仕事はいろいろありますが、短時間の接点が多いのに対して介護は24時間365日、かつ平均入居期間が3~5年(病院の平均在院期間31.9日)です。
例えば、スタッフ10名のフロアのお客様であれば、入居している間に4~8名のスタッフが退職になります。また、企業によって多少異なりますが従業員のキャリア・スキルアップ、昇格の為、3~5年程度の周期で異動(周期5年でも1年2名)があり、それを加味すれば1年で約4名、入居期間換算で12~20名のスタッフが入れ替わるわけですから、お客様が「また…」となる気持ちも理解は出来ます。
しかし、お客様にはこの異動によって介護スタッフの視野が広がり、スキルが上がり、その結果がさらなる介護の質の向上に繋がることも理解していただきたいです。

最後に下グラフは介護を仕事に選択した理由の上位5つです。
収入や待遇でなく、働き甲斐・社会貢献等の純粋な思いをもっている人がこの業界には少なからずいます。現在はそういう人たちの思いで支えられている業界とも言えると思っています。こういう人たちを守り、介護を魅力ある仕事に位置づけるために国だけでなく運営する企業も取り組んでいかなければならないと思います。

参考文献

厚生労働省:平成27年雇用動向調査
厚生労働省:平成26年患者調査
公益財団法人介護労働安定センター:平成27年度介護労働実態調査

この記事の筆者

蜂須賀 尊之

株式会社LIXIL住生活ソリューション シニア事業責任者

1966年 兵庫県生まれ

1989年 トーヨーサッシ株式会社入社
2003年 介護付マンション事業の企画担当となる
2006年 住生活グループ(現LIXILグループ)初の高齢者住宅・介護事業会社となる
「株式会社住生活グループシニアライフ」 立ち上げメンバー
人事・経理・マーケティングの責任者として、会社の基礎を創り上げる
2010年 レジアス百道支配人、福岡3拠点統括責任者
介護現場に改善手法(QC活動)を導入・サービス品質の見える化を促進
2013年 拠点を超えた人事交流を推進
2014年 LIXIL高齢者の住生活相談センター/LIXILの居宅介護支援事業所 介護計画百道 開設
2015年 東京・福岡全7拠点統括責任者
2016年 株式会社LIXIL住生活ソリューション着任 シニアホームなび開設