高齢者は、病院に通うことが多くなりますが、たいていは自分の足で通院しています。しかし、脳卒中や骨折など、大きな事故や発症を契機に、家族が病院に同行しサポートする機会が多くなります。筆者自身、そうした経験から、「やっておけばよかった」という後悔のひとつは、「親の受診の記録を時系列で作成する」ことでした。
・・入院した原因、医師の話、検査の結果、状態の変化、飲んでいる薬、親の愁訴・・・
これらは、家族が必ず、医師、介護施設、ケアマネに何度も何度も聞かれます。1日に同じことを様々な関係者に話さなくてはならないケースもありました。聞かれることに疲弊してイライラすることも。

親のためのカルテを自分で作ってみよう

そんなとき、こうした情報を記録して、必要に応じてコピーを渡せるものがあれば、質問攻めに疲れ果てることもなく、肝心カナメの医師とのコミュニケーションに集中できたのではないか、と思うのです。

では、どんなふうに記録したらよいか、ある書籍を参考にしてみましょう。がん治療の権威である上野直人医師の著書『最高の医療をうけるための患者学』という本です。これは、米国一のがんセンターといわれるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの上野教授が、日本の医療を客観的にみるなかで、日本とアメリカの大きな違いが「むしろ患者さんのほう」であって、患者がコミュニケーション力を高めて、“医師を使いこなす”ことによって、満足度の高い医療を実現することができる、という内容です。
ここで、上野医師は「がん患者が自分のカルテを作る」ことを提案をしています。

筆者は、これを、介護する家族が親のためのカルテ(“親カルテ”(仮称)と呼ぶことにします)に応用できるのではないかと思っています。
次節では、この本で書かれていることを、介護の場面に置き換えてみましょう。

“親カルテ”作成のポイント

①「簡易版と詳細版の2種類を作る」
⇒外部(医師や施設など)に渡すものと自分用とを使い分ける。パソコンで管理するのであれば、詳細版を先に作って、その一部を簡易版にできるようにしておけますね。
②「自分の心情は書かない」
⇒家族の視点で作る“親カルテ”では、客観的な事実や観察したことを書くクセをつけることで、より観察力が増すという効果が期待できます。介護は観察力が勝負。小さな変化が何かの予兆であることもあります。
③「自分が求めている医療が何かを明らかにする」
⇒読みかえれば、「本人が何を望んでいるか」をしっかりと把握することにほかなりません。そして「家族はどうしたいか」。きちんと文章にしてみると、家族・親戚間で話し合いになった時にも、役立つはずです。
④「面談前に質問リストを用意する」
⇒医師が患者の病状と治療について説明する場では、医師の話を聞くだけで終わってしまうこともありがちです。“親カルテ”を作っておけば、質問をあらかじめ整理しやすくなります。
⑤「世の中にあふれる最新情報を鵜呑みにしない」「選択肢を知る」
⇒病院がただ一つの選択肢しか提示してこないこともあるかもしれません。家族としては、「結局はそうかもしれない、でも、納得できていない」ことはありませんか? 納得できる選択を導き出すためには、しっかりと情報を得ることと、情報に振り回されないこと、の両面が必要です。

いわば、エンディングノートの「介護版」

上記のほかに、お薬手帳の内容を貼り付けたり、検査結果を貼っておいたり、本人の自覚症状の訴えなどを記録しておくのもよいでしょう。大切なのは、「客観的に、冷静な目で、観察・記録すること」です。
また、親がまだそんな状態ではないけれど、先々が心配、という方は、早めに作っておいて、いざというときの相談先や利用できるサービスを整理しておくのもよいでしょう。

つまり、“親カルテ”は、介護が始まったときに情報を整理し、他者に説明する負担を軽減し、納得のいくコミュニケーションが実現でき、医療・介護従事者にとっても有益な情報源になるだけでなく、介護が始まる前から作り始めることで、家族がいざという時に慌てずに対処することができるツールとなるのです。

エンディングノートが、ただのメモにとどまらず人生を前向きに考える手段になっているのと同じように、”親カルテ”もきっと、介護する家族、本人にとってさまざまな意味を持ってくるのではないでしょうか。

参考文献

『最高の医療をうけるための患者学』上野直人著 2006年 講談社α新書

この記事の筆者

荻野 百合子

株式会社LIXIL住生活ソリューション シニア事業部 課長
ホームヘルパー2級、福祉住環境コーディネーター2級
早稲田大学卒業。
1986~2008 株式会社三菱総合研究所 勤務。 専門研究員として雇用労働・産業構造を専門に、ワークライフバランス、女性の就業等について官公庁調査業務を担当。厚生労働省 職業安定局の労働力需給推計業務を担当、独立行政法人 労働政策研修・研究機構の「労働力需給推計委員会」委員(2008~2015年まで)
2008~2013 医療系IT企業にて医療関連リサーチ業務、介護職員・看護師の満足度調査、介護施設のコンサルティングを担当。
2013~ 株式会社LIXIL シニアライフカンパニー入社。介護付き有料老人ホームフェリオ多摩川ホーム長就任、2014年より本部企画業務に従事
2016.4~ 株式会社LIXIL住生活ソリューションに出向 シニアホームなび 担当